マイクロ波レーダー

MAGNETRON

英国の航空機早期監視レーダー CHAIN HOME の周波数は30MHzで、ビーム幅が広く、低高度で飛行する航空機の探知が難しかった。
戦争初期、ドイツの爆撃機は英国からの距離が130kmまでは高度3000mで飛行して来た。しかし CHAIN HOME に探知されるようになると飛行高度を下げて英国から距離80kmまで高度1500mで侵入するようになる。CHAIN HOME は位置測定誤差も大きく、レーダーがドイツ侵入機を探知し、英空軍機が緊急発進しても、パイロットが目視で敵の爆撃機を発見するのが難しかった。ドイツ空軍は英のパイロットに発見されにくいように夕方から夜間にかけ侵入して来る。
このため英国はビーム幅が狭く、指向性に優れ、目標位置を正確に測定できるマイクロ波レーダーを求めていた。
１９２０年にドイツの バルクハウゼン 教授が弟子のクルツと真空管を使って実験をしている時に偶然周波数5GHzを発生する。バルクハウゼン・クルツ 振動である。出力が小さく実用にならなかったがマイクロ波の研究用として各国で実験に使われた。米国ジェネラル・エレクトリック社の ハル は２極管の軸方向に磁界を加えて電子流を制御する仕組みのマグネトロンを発明し、１９２５年に周波数20kHz，出力15kWを発生する。
１９２５年、東北帝国大学の 八木秀次 博士がバルクハウゼンのマイクロ波振動を使って周波数780MHzを発生させる。１９２７年に同大学の 岡部金次郎 博士が，ハルのマグネトロンを研究している時にマイクロ波が発生していることを発見する。厚い銅板の中心に孔をあけ、周囲に直径約1cmの孔をあけて、中心の孔に陰極を入れて、周囲の銅を陽極とし、そこに磁気を与える構造である。
米スタンフォード大学でマイクロ波を研究している ハンセン は音の共鳴の原理を電磁波に応用して１９３７年８月に バリアン兄弟 と共同で クライストロン を発明する。クライストロンは連続してマイクロ波を発生できるが、レーダー用のパルス波を発生させるには出力が弱かった。
マイクロ波レーダーの送信機開発を担当しているバーミンガム大学の オリファント は大出力の周波数3GHzのマイクロ波を発生するマグネトロンの開発を同大学の ランドル と ブート の２人に指示していた。
ランドル はヘルツが電波を受信するアンテナに使った共振器からヒントを得て空洞マグネトロンを発明する。１９４０年２月２１日、周波数3GHz、出力400Wの空洞マグネトロンが完成する。長さ19cm、幅9cmの大きさで、重さは僅か550gである。２４日にオリファントがこれを見て、すぐに英国ジェネラル・エレクトリック社に製造指示をすると、６月に出力8kWのマグネトロン NT98 が完成する。このマグネトロンは銅版の厚板の中心と，その周囲に小さい６個の孔を穿った構造である。

マイクロ波艦船搭載用水上レーダー Type 271

英国はこのマグネトロンを使って，１９４１年３月にマイクロ波艦船搭載用水上レーダーType 271を完成して，９月までに３２隻の護衛艦に搭載する。１９４２年５月までに約２００隻に搭載する。

Type 271 の仕様

周波数	3Ghz
出力	90kW
パルス幅	1.5μs
水平ビーム幅	5度
垂直ビーム角	20度
距離精度	180ｍ
探知距離	45km
アンテナ	長方形パラボラ
アンテナ回転	手動

Type 273

ビームが鋭いマイクロ波レーダーは，船が揺れるとレーダーが目標を見失ってしまう。Type 271 を安定台に載せた Type 273 が８月に完成する。アンテナは直径が90cmの送受信別のパラボラである。

AMES Type 13

英空軍は Type 271 から沿岸防衛用の AMES Type 13 を１９４４年に開発する。これが『超低空レーダー網』として，英仏海峡の海面すれすれを飛行して侵入するドイツ機を探知する。

AMES Type 13 の仕様

周波数	3GHz
出力	500kW
パルス幅	0.6/1.9μs
パルス繰返し周波数	500Hz
水平ビーム幅	7.5度
垂直ビーム角	1.5度
距離精度	180m
探知距離	45km
アンテナ	長方形パラボラ
アンテナ回転	手動